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建設業界は働き方改革でどう変わった?現在の労働環境を事例で確認

公開:2024.11.11 更新:2024.11.11

建設業界は働き方改革でどう変わった?現在の労働環境を事例で確認

建設業界は働き方改革でどう変わった?現在の労働環境を事例で確認
画像出典:photo AC

働き方改革は、労働環境の改善と多様で柔軟な働き方を実現するための取り組みです。建設業界では、時間外労働の上限規制や有給休暇義務化、フレックスタイム制の導入などが進み、労働環境が改善されています。ICT技術導入や休日増加で生産性向上も図られています。

働き方改革の目的と働き方改革関連法

働き方改革は、労働力不足や多様化する働き手のニーズに対応するため、柔軟で多様な働き方を実現するための取り組みです。政府主導で労働環境を改善し、個々の事情に合った選択ができる社会を目指しています。

◇働き方改革の目的

働き方改革は、少子高齢化を背景に労働力不足を解消し、多様なライフスタイルに対応することを目指しています。日本の生産年齢人口は減少し、2050年には5,275万人にまで減ると予想されています。この問題により、企業は働き手の多様なニーズに応える必要があります。

特に、出産・育児や介護と仕事の両立が難しく、家庭の事情で退職を余儀なくされるケースも増えており、働きたくても続けられない人々が多いのです。

働き方改革は、こうした問題を解決し、労働者が自分の生活状況に合わせて働ける環境を整えることを目指しています。政府はこの改革を通じて、労働環境を見直し、より柔軟で多様な働き方を可能にしようとしています。厚生労働省は、この改革を「個々の事情に応じた働き方を自ら選択できるようにする改革」と定義しています。

◇働き方改革関連法とは

働き方改革関連法は、労働環境を改善し、働き手が多様で柔軟な働き方を選べるようにするために制定されました。この法律は、主に3つの柱から成り立っています。それは「長時間労働の是正」「多様で柔軟な働き方の実現」「雇用形態に関わらない公平な待遇」です。

これらの柱を通じて、労働者がより働きやすい環境を整えることを目指しています。具体的な内容としては、長時間労働の制限、有給休暇の取得促進、非正規雇用と正規雇用の待遇格差の解消などが挙げられます。これにより、労働者は自分のライフスタイルや事情に合った働き方を選びやすくなります。

働き方改革関連法は、労働環境の改善を進めるための重要な一歩となっています。

建設業界の仕事がつらいといわれる理由

引用元:photo AC

建設業界では、厳しい上下関係や古い指導方法が若手を苦しめ、精神的・肉体的な負担が増大しています。人手不足や高齢化も深刻な問題で、業界の未来に影響を及ぼしています。

◇昔の慣習が残っている 

建設業界には未だに厳格な上下関係が根強く存在しており、これが新入社員や若手職人に過度なプレッシャーを与える原因となっています。このような圧力は精神的な負担を増大させ、仕事に対するストレスを引き起こします。 

また、「仕事は見て覚えろ」という昔ながらの指導法が一部の建設会社で続いており、若手は十分な教育を受けることができない場合もあります。これにより、仕事の進捗が遅れたり、スキルを効果的に習得することが難しくなっています。 

加えて、長時間働くことや休みが少ない環境、低い給与も若者が建設業を敬遠する理由です。過酷な高所作業や危険を伴う作業が多く、肉体的にも精神的にも厳しい現場が多いため、健康面でも負担が大きくなります。 

暑さや寒さにさらされる過酷な労働環境が、さらに体力や精神力を消耗させ、若い世代の労働意欲を削ぐ要因となっているのです。

◇人手が足りない 

建設業界の人手不足の主な原因の一つは、高い離職率です。特に、2013年から2022年にかけて建設業の就業者数が20万人減少し、就職後1年未満での離職が多く見られます。多くの若手は仕事に対するやりがいや職場の人間関係を重視しており、建設業界の古い価値観に共感できないことが原因とされています。 

転職により、建設業の人材は大手企業や都市部に集中し、中小企業や地方の企業はますます人手不足に直面しています。これにより、地方の工務店では新たなプロジェクトの受注が難しくなり、業界全体に悪影響を及ぼしています。 

人手不足は建設プロジェクトの遅延や品質低下を引き起こし、過重労働や労働環境の悪化にもつながっています。このような状況は、業界の将来に対して深刻な影響を与えており、早急な対応が求められています。

◇就業者の高齢化が進んでいる 

国土交通省によると、建設業で働く人の約25%が60歳以上であり、少子高齢化が進む中で現役世代の数が減少しています。これが建設業の人手不足を深刻化させている最大の要因となっています。 

熟練職人が退職を迎える中で、長年培った技術やノウハウが失われつつあります。この結果、業界全体で熟練技術者が不足し、今後も人手不足はさらに深刻化する見込みです。 

また、高齢の職人が退職する一方で、若手職人の確保が難しくなり、人手不足がますます深刻化します。これにより、労働環境が悪化し、業界全体に負の連鎖が生じています。 

この問題を解決するためには、業界の魅力を若手に伝え、改革を進めることが不可欠です。若い世代が魅力を感じる職場環境を整備し、持続可能な業界へと変革していく必要があります。

働き方改革で建設業界が変わったこと

建設業界にも時間外労働の上限規制が適用され、長時間労働の抑制が求められています。割増賃金の適用や有給休暇の義務化が進み、労働環境の改善が進行中です。

◇時間外労働の上限規制が適用 

2019年の働き方改革関連法の施行を受け、茨城県内の建設業界にも労働環境改善が求められました。長時間労働が常態化していた建設業でも、急な対応が難しいことから猶予期間が設けられ、2024年4月1日から時間外労働の上限規制が導入されます。 

これにより、建設業でも一般企業と同様に残業時間に上限が設けられることとなり、過重労働の抑制と健康的な労働環境の確保が義務付けられます。働き方改革は、業界全体の労働環境改善に向けた重要な一歩といえるでしょう。 

労働基準法では、法定労働時間が1日8時間、週40時間以内と定められており、これを超える労働は時間外労働となります。時間外労働を行うには、会社と従業員で「36協定」を結ぶ必要があり、残業時間には上限が設けられています。 

また、時間外労働は月45時間、年間360時間が上限となり、企業はこの範囲内での労働管理を徹底しなければならなくなりました。

◇法定時間外労働賃金の割増 

中小企業においても、法定時間外労働が月60時間を超える場合、50%の割増賃金を支払うことが義務付けられるようになりました。この規定は、大企業で2010年から導入されていたもので、今回中小企業にも適用されるようになったものです。 

従業員の同意を得た場合、割増賃金の代わりに時間外労働分の代替休暇を付与することも可能となり、柔軟な働き方を促進しています。これにより、従業員の過重労働が軽減されることが期待されています。 

さらに、法定休日労働については時間外労働とは別扱いとなり、割増賃金率は35%となります。これにより、労働者の休日に働かせる場合も適切な賃金が支払われることになります。 

割増賃金の適用によって、企業は従業員の過剰な働き方を抑制し、労働者の福利厚生の充実が図られることが求められます。

◇有給休暇の義務付け 

2019年4月に施行された労働基準法改正により、企業は年間10日以上の年次有給休暇が付与されている従業員に対して、少なくとも5日間を確実に取得させる義務が課せられました。この義務は、過労や健康問題を予防し、労働者が休息を取りやすくすることを目的としています。 

この規定は主に正社員を対象としていますが、契約社員やパートなどの非正規社員にも適用されます。非正規社員でも、勤続期間や所定労働時間が一定の条件を満たせば、有給休暇を付与されることが義務づけられています。 

5日間の有給休暇取得義務を企業が確実に履行することにより、従業員の健康管理が進み、過労を防止する効果が期待されています。これにより、企業全体の生産性向上が見込まれます。 

働き方改革の一環として、有給休暇取得を推進することで、労働者の満足度や仕事の質も向上し、企業文化の改善にもつながると考えられています。

働き方改革の取り組み事例

スーパーフレックスタイム制が導入され、柔軟な働き方が実現しました。また、三位一体改革によって生産性向上が進み、ICT建機導入や休日増加、多能工化が推進されています。

◇スーパーフレックスタイム制の導入 

若手社員、中堅社員、管理職が協議を重ねた結果、企業は「スーパーフレックスタイム制」を導入することを決定しました。この制度では、月間総労働時間を満たせば、出退勤の時間を完全に自由に決めることができます。 

通常のフレックスタイム制と異なり、コアタイムが設定されていないため、社員は自分の生活リズムに合わせて働けるようになります。この柔軟な働き方により、個々のライフスタイルに合わせた仕事の進め方が可能となりました。 

例えば、労働時間が多かった月には、翌月に午後から早退して家族と過ごす時間を確保するなど、生活にメリハリを持たせることができます。この変化により、社員の体調が改善され、仕事に対する満足度も大幅に向上しています。 

この制度の導入によって、社員の仕事の質が向上し、仕事と生活のバランスが取れた働き方が広がることが期待されています。

◇三位一体改革による生産性向上 

建設業界では、2021年から国土交通省の「i-Construction」を参考にしたICT建機の導入が進められました。これにより、熟練者の退職や若年層の減少に対応し、人材確保と生産性向上が目指されています。 

ICT建機の導入は、工事評点に加点されるなど、業界全体での競争力向上を狙った取り組みです。従来の機械更新時期に合わせて、新たな技術を導入することで、安全性の向上と効率的な作業が実現されています。 

さらに、休日の増加も進められ、2022年から4週6休が開始され、2023年には4週8休(年間105日)へと段階的に拡充されました。この取り組みは、社員の働きやすさを向上させ、業界の魅力を高めることを目的としています。 

また、人手不足に対応するため、既存社員の育成と多能工化が進められています。社員が多様な作業に対応できるよう、適性や興味に応じた業務割り当てや、安全教育、技能講習の受講が推進されています。


働き方改革は、少子高齢化や労働力不足に対応し、多様で柔軟な働き方を実現するための取り組みです。目的は、労働環境を改善し、個々の事情に合った働き方を選べる社会を作ることです。

働き方改革関連法は、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、公平な待遇の確保を柱として、過重労働の抑制や有給休暇の義務化、正規・非正規雇用の待遇格差解消を進めています。建設業界では、厳しい労働環境や人手不足が課題となっており、働き方改革の一環として時間外労働の上限規制や割増賃金の適用、有給休暇取得の義務化が進んでいます。

例えば、スーパーフレックスタイム制の導入により柔軟な働き方が実現し、ICT建機の導入や休日増加、社員育成によって生産性が向上しています。これにより、労働環境が改善され、仕事と生活のバランスが取れるようになっています。